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台湾生まれのかわいいキャラクター「チモ」とは?生みの親であるアートディレクターに聞く。

「チモ」ってなんだ?

チモ」は地下に住む7人の妖精たち。ロボットのようなトコラを中心に、人間でもなく動物でもない不思議な仲間たちが日々楽しく過ごしている。それぞれに見かけも性格も違う7人。ファッションスタイルも異なるけれど、みんなカラフルでけっこうファンキーだ。

トコラと仲間の妖精たち=「チモ」。裸足で毛は生えたまま。

 チモは靴をはかず、足や体の毛の手入れはしない。いつも裸足で毛は生えたままだ。裸足で過ごすのは地球とちゃんと触れ合いたいと思うから。そして、むだ毛の手入れをしないのは生まれもった自分の体を慈しみたいという気持ちから。

 中国語で裸足を意味する「赤(チ)」と、毛を意味する「毛(モ)」。それで「チモ」。台湾では「赤毛族」と呼ばれている。

チモが大渓老街を歩くというお話。チモの気持ちがよくわかる楽しい絵本。街の様子や建築デザインも丁寧に描かれている。

 チモの生みの親は「U&S Studio」のオーエン(温國欣)とクレア(陳美君)。同じ大学でアートを学んだ先輩と後輩だ。誰にも真似できないような個性的な絵を描くクレアと、絵ももちろん大好きだけれど作品を世の中に広めるのも得意なオーエンは、5年前にコンビを組んだ。

チモの生みの親のひとり、オーエン。クレアはただいま産休中。

 2人が台北で仕事を始めて驚いたことがある。「どこもかしこも工事だらけ。高層ビルを建てたり新しいものを作ったりしててね。あちこちで大きな木がバッサバッサと切られて、道に穴がボコボコ開いているんだ」

 新しいことばかりが優先されて自然をなかなかかえりみない都会の暮らし。いつも忙しくて見た目を繕ってばかりの人間たち。それでいいの?と自問するうちに発想を得た。地球や自然を愛し、ありのままの自分を大切にハッピーに生きるキャラクターを作ってみようと。


 そして生まれたのがチモだ。7人のハッピーな妖精たちは、穴のある地面の下、木のくねくねした長い根っこと根っこの間にある快適な空間の部屋で、それぞれが好きなことをしてマイペースに楽しく暮らしている。

 チモはときどき道路の穴から顔を出して、地上を旅して歩く。街並みを楽しんだり、観光名所に行ったり、お店にお邪魔したりもする。裸足なので夏はコンクリートの路面が熱くてたまらないが、そんなときは鉢植えを見つけて土と緑の間で一息つく。自然はチモにとってなくてはならない大切な存在なのだ。

迪化街でチモとのコラボの輪が広がっている

 2人のスタジオがある迪化街をオーエンが案内してくれた。迪化街は昔、お茶や漢方などの貿易で栄えた商売の街。当時建てられた華やかな装飾のレンガ建築が並ぶ。最近はそうした建物にアーティストが移り住み、クリエイティブな街としても注目されている。古くからの商店の間におしゃれな雑貨やアートを扱う店が出現し、日本の観光客にも人気が高い。

迪化街の真ん中で。

「3年前に引っ越してきてね。この街のことをよく知りたいと思って、街歩きから始めたんだ。古い建物もあちこちに残っててカッコいいし、それをスケッチしていった。街や建築の歴史的な背景も調べて勉強したよ。それをボクたちのスタイルでイラストにしていったんだ」

迪化街の観光パンフレットにもチモがいる。右側の建物のイラストは迪化街に来て最初に取り組んだことのひとつ。

 老舗が並ぶ街は、意外にも新しい住人をこころよく受け入れてくれた。

「建物のイラストを見た地元の店の人たちが”君たちどんなことやってるの?”って声をかけてくれるようになったんだ。それでボクたちが大切にしているチモのことを話すと、コンセプトに共感してくれた。”すごくいいね。うちの店の商品のイラストを描いてくれるかな?”って。そんな風にお店とのコラボが始まっていったんだ」

 老舗漢方薬店、行列のできる食堂、アート書店、人気のお土産物屋など。商品とチモのコラボが始まり、それがまたコラボを呼ぶ。チモの輪が広がっている。

1957年創業の老舗漢方薬局「黄長生薬行」の姉弟とオーエン。虫除け剤とチモがコラボしている。

「コラボはすごく楽しいよ。まずお店の人たちの話をじっくり聞くことから始まる。どんなことをボクたちに求めているかを聞き取るんだ。それから7人いるチモのどのキャラクターを登場させたらぴったりくるか、どんなシーンがばっちりかと考えて、絵を描き始めたり、デザインを考えたりするんだ」

 例えば、自然素材の虫除け剤のラベルでは、虫が来なくなったと喜んでいるトコラが安心して昼寝しているし、食堂の垂れ幕では名物の肉団子がいっぱい入った鍋をひまわり頭のファロがしあわせそうに食べている。チモはコラボする相手に合わせて変幻自在。「この商品を使ったり食べたりしたらこんなハッピーなことがあるよね」という夢を見せてくれるのだ。

老舗漢方薬局「黄長生薬行」の虫除けバッグのラベルをデザイン。トコラが安心してお昼寝している。
行列ができる肉団子屋さん。ひまわり頭のファロがもぐもぐ中。
チモのコラボ商品や絵本を販売している迪化街の老舗書店「Bookstore 1920s」。商品はお土産屋さんでも扱っている。

 オーエンはコラボした店をちょくちょく訪れたり、チモが登場するイベントポスターを自らあちこちに貼ったりして、街をよく歩いている。店をのぞけば楽しいやりとりが始まり、街に来てまだ3年しか経っていないというのにもうすっかり街の人だ。

チモのかわいいTシャツが人気。

チモの夢は世界へ羽ばたくこと

 今では、台北市のアートイベントをはじめ、ギャラリーでの企画展、文房具メーカーや食品メーカーといった企業とのコラボなどで引っ張りだこのチモ。迪化街を拠点にしながらも活動の幅を広げている。

文房具メーカー「利百代(LIBERTY)」とコラボしたチモの鉛筆。

 今年は台湾の若手クリエーターの代表に選ばれて東京の見本市に参加し、日本にもチモを紹介する機会に恵まれた。

日本向けにチモを紹介するポスターでは、チモの7人は七福神に変身した。トコラとファロは相撲力士になった。

 そこで出会ったのが、糖尿病の人たち向けのグッズを作る「mature by ndesign」。患者が毎日使わなくてはならない注射や計測器などのケースを明るく楽しいものにしたい、とおしゃれなデザインを次々に提案している女性二人組だ。

「チモのハッピーなコンセプトが自分たちの商品にぴったり」と海を越えてのやり取りが実り、チモとのコラボ商品が誕生した。オーエンも「患者さんたちがチモに勇気付けられたり、明るい気持ちになってくれたらすごくうれしい」と笑顔を見せる。

糖尿病患者のための血糖値計測器リブレのドレスアップシールにチモが登場。

 チモはコラボする街やモノとの新しい物語を次々に生み出しながら、ハッピーの輪をどんどん広げている。夢は世界へ行くこと。「いつか富士山とチモのコラボができたらいいな」とオーエンたちもやる気十分だ。きっとチモはやるに違いないと思っている。

スタジオで。取材当日、通訳をしてくれたシンガーソングライターの洸美さんとオーエン。

オーエンとクレアのクリエイティブスタジオ U&S叔叔與妹妹(U&S studio)

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